ディクテーション自己学習のススメ

 ディクテーション(dictation)という学習法があります。これは、英語を聞きながら聞こえてくる英語を一語一旬残らず書き取るだけの極めて単純な学習法です。「音声を文字にする」というだけの作業ですから、「大して効果があるとは思えない」と主張する人も多いようです。しかし、英文を書き取る作業の過程には、実にたくさんの要素が含まれており、英語の総合力アップに非常に効果のある学習法なのです。

 何年か前に、TOEIC を考案された三枝幸夫氏と私どもの合同調査で、ディクテーションの正解率と TOEIC スコア(=英語能力〉のあいだには非常に高い相関関係があることが証明されました。つまり、「ある一定のルールの基でディクテーションをやった場合、その正解率からTOEICスコアが予測できる」ということでした。

ディクテーションの方法と学習効果

 ディクテーシヨンの基になるのは、音声だけです。その音声だけの状態から、どこが文の始まりなのかどこで終わっているのかなどを判断して、大文字にするところやピリオドを打つところなどを決めます。文尾がピリオドなのかクエスチョンマークなのかなども判断します。

 しっかりした文法力がないと、文の初めや終わりを確実に判断することができません。こうしたところに、高度な文法力やライティング能力が要求されるというわけです。

文法力をブラッシュアップすることができる。

 英単語にはたくさんの同音異綴語や紛らわしい発音の単語があります。こうした単語は、音声上はまったく同じに聞こえたり、すぐには判断できない発音で聞こえたりします。こうした場合、状況判断がポイン卜です。

 また、ふつうのスピードの英語では、「弱化」や「消失」と言われる、音がはっきり聞こえない状態だったり、「連結」と言われる音がつながった状態だったり、他の発音にまぎれて別の発音に聞こえてしまう「同化」現象だったりします。

 こうしたリスニングを困難にするさまざまな現象も、文法力があればそこを補って理解することができます。つまり、ディクテーシヨン学習を続けることによって、リスニング力だけでなく、文法力、構文力、リーディング力が備わってくるというわけです。

英語の総合力を上げる

 ディクテーシヨンは一見、物理音の聞き取り作業の世界から出ていないように思えますが、実は上で述べたようにさまざまな要素が求められますので、Listening Comprehension 能力(聴いて状況を判断し内容を理解する力)の養成を含め、リーディング力、ライティング力、文法力などをブラッシュアップするのに最も効果的なトレー二ング法だと言えるでしょう。

それでは、ディクテーシヨンの学習法を具体的に考えていきましょう。

1. ディクテーションの学習方法

(1) スクリプトが入手できる英文を使う。

 自己学習でディクテーシヨンする場合、書き取った自分の英文が正しいのかどうかを確かめる必要があります。ですから、スクリプ卜は絶対に必要です。スクリプ卜が入手できる英文をディクテーションしましょう。

(2) 「脱落」や「弱化」の少ないものを使う。

 上で述べたような音声変化の現象、つまり、脱落や弱化が頻繁に起きるような英語やナチュラル・スピードの映画のセリフなどは、ディクテーシヨンにはあまり適していません。実は、脱落や弱化が生じている箇所は、物理的に音声自体がないことも多いのです。ディクテーションの際に細かいところまで聞き取ろうと何度も同じ箇所を聴くと、実際の音声がないため、堂々巡りに陥ってしまうことがあります。

 英語能力の上級者になると、このように物理的に音声がない部分も聞き取って理解します。なぜでしょうか。上級者は物理的な音声がない部分であっても、前後から内容を判断し、発音されていない音声を頭の中で補って英文を再構築、再生しているのです。

 しかし、初期の学習者は、脱落して聞こえにくい部分を聞き取ろうとするあまり、その1か所だけを集中して聞こうとすることがよくあります。物理的に発音されていない部分はもともと音がないわけですから、細かく区切って聞こうとすれば、逆に聞こえないのです。ですから、初期のうちは、物理的に音声が脱落していないものを使って学習するほうが効果的です。

(3) フレーズごとに区切って聞く。

 ディクテーションは、4~5語くらいのフレーズを目途に区切りながら聞き、それを書き取っていきます。最初のうちは、文単位のようにあまり長い単位で聞いても記憶できませんし、CDやその他の再生機器を正しい位置に戻したりするのが大変です。記憶できないと同じ所を何度も聞き返してしまうことになり、効率がよくありません。

 また、フレーズごとに区切って聞くということは、逆に言いますと、単語単位のようにあまりに細かく区切らないということでもあります。あまり細かく切ると、音素だけを聞き取ろうとする姿勢になってしまい、内容をつかもうとする学習から外れてしまいます。

 何度も述べますが、脱落現象や連結現象が起きている部分は、物理的には発音されていないのです。ですから、細かく区切って聞いても聞き取れるはずがありません。

 では、なぜ長いスパンで聞くと発音されていない音をキャッチできるのでしょうか。それは、全体の意味や前後から判断して、頭の中で音を再構築できるようになるからです。

(4) どういう手段でもかまわない。

 ディクテーションの自己学習は、辞書を引く、インターネットで検索する、友人や native speaker にたずねるなど、基本的には何をしても自由です。自分の学習ですから、好きなように学習しましょう。

(5) 身近な話題を選ぶ。

 英語学習で最も重要なことは持続することです。長く続けるためには、興昧が持てて、しかも自分の勉強や仕事に役立つものがよいでしょう。この点、ニュースは毎日違った内容を流してくれますし、興昧を持続させてくれますが、スクリプトがあってゆっくりしたスピードで読んでくれるニュースがないのが難点です。以前は、Voice of America に Learning English News というのがありましたが、今ではゆっくりとしたスピードのニュースは、残念ながら放送されなくなってしまいました。

 その点、Voice of America の Learning English では、いろいろな話題のプログラムを日々提供してくれています。このプログラムを利用しない手はありません。

2. ディクテーション学習に最適のVoice of America Learning English

 アメリカのワシントンDCにあり、大統領直轄の国営のラジオ放送に Voice of America(アメリカの声)というのがあります。アメリカ大統領直轄の国営ラジオ放送ですから、その英語の内容と質は、吟味を重ねて厳密に選定された最高のものです。また、アナウンサーたちも特別に話し方や発音などの訓練を受けたスペシャリストばかりです。

 ここに VOA の Learning English の中から、興味が持てそうな話題を集めてみました。クリックしてみてください。株式会社ナラボー・プレスのサイトです。

https://www.nullarbor.co.jp/voa/SpecialEnglish.html#2

(1) VOAのLearning English が聞き取り練習に最適の理由とは?

 Voice of America には語彙レベルと話すスピードを抑えた、やさしい Learning English という番組があります。この番組がディクテーション学習に最適です。

 その理由を考えてみましょう。

スピードと語彙問題を一挙に解決!

 Learning English による番組は、使用される単語レベルを1,500語程度に制限し、スピードも1分間に100語程度に抑えてあります。ふつうのネイティブ・スピーカーたちがスピーキングに使う語彙レベルは5,000語レベルを超えます(ライティングに使う語彙レベルは1万語超)し、スピードも1分間に150語くらいだと言われていますから、Learning English の「1分間に100語」というスピードはずいぶんゆっくりと聞こえ、聞き取りやすいのです。

 英語学習の初心者にとっては、あまり高度な単語ばかりを使って話されても理解できませんし、速いスピードでは聞き取れません。スピードと語彙は初期の英語学習の二大関門ですから、VOA の Learning English は、これらを一挙に解消してくれるというわけです。

絶妙なポーズで理解しやすい

 Learning English は、ただ単にスピードがゆっくりしているだけではないのです。アメリカ政府が全世界に向けて放送している VOA ならではの工夫が成されているのです。それは Suprasegmental Recognition と言われる音声工学に基づいた録音方法です。

 これは、1つのフレーズ(意味を成す語句のかたまり)は、殊更にゆっくりと読んでいるのではなく、ふつうのスピードよりわずかに遅い程度です。そして、フレーズとフレーズの間のポーズの空きに絶妙の工夫が凝らされているためにゆっくりと聞こえ、理解しやすいのです。

一般のゆっくり英語教材との違い

 「ゆっくりであれば聞き取りやすいだろう」と、日本で市販されている教材のなかには、フレーズも単語もひとつひとつ区切ってゆっくり読んでいるものがときどき見受けられます。しかし、1語1語をゆっくりと読んだ上に意味のつながりを無視して区切ってしまうと、今度は聞こえてくる英文のスピードと理解の思考スピードの間にズレが生じ始め、音声そのもの(物理音)は聞き取れても意味が理解できないというおかしな現象が起きてしまいます。

 このように絶妙のポーズを設けた VOA の Learning English は、非英語圏の人たちが理解しやすいようにという意図でていねいに制作されたいたれりつくせりの番組です。もともと英語教育のために作られた番組ではありませんが、私たち英語の non-native speaker の英語学習のためには最適の教材となっているというわけです。

(2) Learning Englishの基本単語1541語

 上で、「使用単語を1,500語程度に制限し、スピードは1分間に100語」と述べました。この基本単語は VOA のサイトでも紹介されています。

 この1,500語の基本単語は、CIA(Central Intelligence Agency=中央情報局)などがある大統領直轄の組織である米国情報庁(United States Information Agency)が支援し、非英語圏の人たちに英語を伝えるにはどういう単語を使えば最も効果的かということなどを調査しながら12年の歳月をかけて作られたThe New Horizon Ladder Dictionaryという辞書をベースしています。

 この辞書には約6,000語の見出し語がありますが、その中から、Voice of America が特に平易な英語を音声で伝えるための最重要語彙として選び抜いたのが、この基本1541語というわけです。

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