梅雨時になると思い出す。
もう50数年も前になるが、屋久島の我が家に「つゆ」という名前のネコがいた。
集落の公民館で上映された映画を兄2人と見に行った帰り、小川のほとりで鳴いていた子猫を拾って帰った。
その日が入梅の日、つまり6月11日だったので、父が「つゆ」と名づけた。
その「つゆ」は、なぜか当時中学生だった長兄にいたく懐いた。
長兄は当時、母屋から十数メートル離れた納屋の2階に自分で部屋を作り、そこを勉強部屋兼寝室にしていた。
朝、母や父が「つゆ」に「兄ちゃんを起こしてきて」と言うと、納屋の2階の兄の部屋まで起こしに行く。なぜか「つゆ」は兄の部屋で寝ることはなかったようだ。
そして、しばらくあとに「つゆ」が帰ってくると、必ずそのすぐあとから兄がやって来る。
「つゆ」が帰ってくるのに少し時間がかかることがある。すると兄が、「つゆに耳や鼻を咬まれた」と言うのだ。兄が起きないと、「つゆ」は起きるまであちこち咬んだりしたらしい。
当時できたばかりの国立高専の受験(2期生)に失敗した長兄は、しばらく家にいて家の手伝い(農業)をしていた。兄はなぜか、屋久島高校は受験しなかった。
しばらくして、「屋久島高校に進学した中学の同級生と会うのが恥ずかしいから、東京に行きたい」と言い始めた。それで、父が彼の妹(私たちの叔母)を頼って二人で上京した。7月10日だった。
長兄がいなくなって2,3日した頃から、「つゆ」の姿が見えなくなった。
どうしたのだろうとあちこち探したところ、家から200メートルほど離れたポンカンの木の根元で「つゆ」が死んでいるのが見つかった。
長兄が中学生のときに拾ってきたネコだから、まだ3歳にもなっていなかったはずである。寿命ではない。長兄がいなくなったことを悲しんで自殺したのだろうと、家族で話したのであった。
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