赤井田拓弥がカリフォルニア州 Palm Desert にある College of the Desert に留学していたときに起きた、さまざまな出来事をエッセイ風に書いています。
その1 ― グレイハウンドバスに乗って、大学のある町へ
ロサンゼルス空港近くのホテルに滞在し、時差ぼけで悶々とした夜を過ごし、明け方近くにうとうとし、目覚めると外は明るく、南カリフォルニアの太陽がさんさんと降り注いでいた。
こうして、アメリカ2日目がスタートした。
アメリカ到着の最初の夜は夜中に目が覚め、明け方近くまで悶々と過ごす結果となったが、明るくなって朝食を食べると、ゆうべ「明日にでも日本に帰ってしまいたい」と思ったことなどすっかり忘れ、アメリカで過ごしていく希望も沸いてきた。
南カリフォルニアの明るい太陽の効果は大きい。
私が行こうとする大学がある町は、ロサンゼルスから東へ130マイルほどのところにある。アリゾナ州との州境の中間点あたりである。Palm Desert という町だ。旅客列車はないので、人は車で移動する。私には車がないから、グレイハウンドという長距離バスで行く。
グレイハウンドのバスターミナルは、ロサンゼルスのダウンタウンにある。
ホテルをチェックアウトし、ドアマンに行き方、バスの乗り方などを聞いたが、土地勘もないし、英語のリスニング力もないので、分からなかった。
結局、タクシーで行くことにした。どんどん金がなくなっていく。空港近くのホテルからロサンゼルスのダウンタウンまで、タクシー代は確か40ドルくらいだったと思う。
タクシーの中で、運転手と少し話をした。
私の英語がなかなか通じず、そしてまた、彼の英語もよく理解できなかった。今思えば、その運転手はいわゆる英語のネイティブ・スピーカーではなかったのかもしれない。
タクシーの支払いを旅行者用小切手 (traveler’s check) で払えるかと聞いたとき、よく通じずに、手書きで示した。そのとき、自分で chequeと書いたことを覚えている。これはイギリスつづりである。
運転手は、Oh, sure. I can take it to my bank. のように答えた。
この my のような代名詞の所有格の使い方を、私はまだよく理解していなかった。my plane や my bus には、「私が乗る飛行機、私が乗るバス」という意味があるのだが、私は、運転手の my bank を「彼が所有する銀行」と理解してしまった。
「さすがアメリカ! 銀行を所有しながらタクシーの運転手をしている人もいるのかもしれない」
などと思ったのである。
しかし、いくらアメリカでも、そんな人は、たぶんいない。